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平成18年6月に始まった家電リサイクル法の見直しにおいて、当初は「前払いか、後払いか」という費用回収方式に係る議論が焦点となるものと見られていた。なぜなら、「現行の後払いを前払いにすれば、自治体が問題視する不法投棄が減るが、一方の事業者は家電製品の実質的な費用上乗せにつながるという観点から反対する」というメディア向けの議論が先行したためである。しかしながら見直しのプロセスを経て、現行の家電リサイクルシステムが抱える最大の問題点はいわゆる「見えないフロー」の存在に起因しているという点が指摘されるに至った。毎年約2千3百万台弱排出される使用済み家電のうち、正規ルートを通じてリサイクルされているのは1千2百万台弱に過ぎず、その差分は「リユース品としての活用」や「海外向けの部品販売」等を含む合法・非合法を交えた非正規ルートに廻されているという実態が明らかになったのである。
そもそも我が国の家電リサイクルシステムは、世界に類を見ない実績を残してきている。4品目合計の処理量は、重量ベースで4.47kg/人(平成17年度実績)に及んでおり、EUがWEEE指令で定めたが達成できない4kg/人を優に超えるレベルにある。また、処理の内容で見ても、再商品化率(マテリアルリサイクル率)は、エアコン86%(法定基準60%)、テレビ77%(同55%)、冷蔵庫71%(同50%)、洗濯機79%(同50%)と高水準にあり、適正に処理されたフロンはトータルで1,900トンに及ぶ。こうした値は全て情報システム管理による実質的な裏付けを伴っており、我が国が世界に冠たる「家電リサイクル大国」であるという点に疑う余地はない。ただし、この実績は全て制度の枠組み内で制御される正規ルート分のみを通じた成果であり、マクロ的に見れば、使用済み家電全体マクロ的に見て半分もカバーしていないという事実を見逃すことはできない。逆に言えば使用済み家電の残る半分を、いかに正規ルートに取り込んでいくか、あるいは正規ルートに入らないリユース品等の流れを正確に把握・管理していくか、という点が本質的な課題なのである。
今回の見直し議論の結論を一言で言えば、現行の家電リサイクル法は大枠としては評価されるべきであるが、「リユース品としての活用」や「海外への部品販売」等、制度制定当時に想定していなかった範囲の事象への制度的な対応を推進しつつ、家電リサイクルシステムの高度化を目指す、ということになる。法改正は見送られたものの、政省令レベルで幅広い改善が求められることになったという事実がそのことを端的に示しており、長期に渡る見直しのプロセスには十分な価値があったと言える。
本稿では、家電リサイクル法の見直しに係る主要な議論の整理を行うとともに、「家電リサイクル大国ニッポン」の更なる進化に向けた方向性の検証を行う。
結論的として、家電リサイクル法見直しに係る課題は、以下4点に集約されることとなった。
(1)消費者からの排出段階における課題
(2)小売業者の収集運搬段階における課題
(3)不法投棄に関する課題
(4)他の関係法令に関する課題
まずはそれぞれの課題と、見直しの結果を整理した報告書(「家電リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する報告書」、以下、「報告書」という。)に示された解決の方向性について検証してみよう。
「(1)消費者からの排出段階における課題」とは、消費者から小売業者を経由する正規ルートへの円滑な排出を促すことを指している。使用済み家電製品の再商品化等料金は、品目別に2,400円〜4,600円(小売事業者までの運搬費用を含まず)に設定されており、一般消費者の感覚からは高いという印象が拭えない。この金額の低減の必要性を含め、報告書には各種の改善策が示されているが、中でも注目するべきは、「小売業者によるリユース品引取りの促進」である。リユース品はリサイクルショップやネット市場で取引されるケースが多いため、いわゆる「見えないフロー」の中で取引が行われているというのが実態だ。仮に大手小売量販店等が同様の引き取り(有価買い取りを含む)を行い、消費者が正規ルートと同様の窓口への排出を行うことが一般化していけば、リユース品のフローについても一定のレベルでの把握が可能となることが期待されているのである。
「(2)小売業者の収集運搬段階における課題」とは、これまでも数多く発覚してきた小売事業者による引渡義務違反等を防止しつつ、メーカーへの引渡しを円滑化していくことにある。この場合も、ポイントとなるのはリユース品等の扱いである。現行法下で排出者からの引き取り状況等の記録や管理が求められているのはメーカーへの引渡しを前提とした使用済み家電製品のみとされている。ただし、報告書では、リユース品として引き取った場合も含め、消費者から引き取った全ての排出家電について、引渡し先やリユース取り扱い基準等についての記録・報告を行うことを大手量販店等に対して求めている。更に、小売事業者自身がリサイクルされるべき物品とリユース品として取り扱うべき物品を客観的に仕分けするためのガイドラインを策定するという方針も合わせて示された。
「(3)不法投棄に関する課題」は、文字通りその防止策徹底の必要性を意味している。環境省調査によれば、平成17年度の不法投棄台数は155千台以上に及んでおり、その処理に係る自治体等の負荷を軽視することはできない。報告書には、資金面も含めた関係者間協力体制の構築という方針が示されており、普及啓発や監視パトロール等の不法投棄対策に積極的な自治体に対しては、メーカー等が資金面も含め協力する体制を設けることも定められた。この点については、「後払い」を前提とした既存の家電リサイクルシステムを維持することとのトレードオフという見方が出来るであろう。
「(4)他の関係法令に関する課題」における関係法令とは、主に「廃棄物処理法」と「バーゼル法」のことを指している。まず前者について、使用済み家電は明らかに逆有償物であることから、業の許可を有する事業者でなければ収集運搬・処分することは出来ない。しかしながら、リユース品は有価で商品として取引されることが一般的であり、業の許可を持たない家電回収業者等がリユース品を装ってスクラップ取引等を行っているという事例が散見されているのである。また、後者についてもリユース品が関わっている。そもそも一般的な使用済み家電はバーゼル法上の輸出禁止成分を含有している可能性が高い。しかしながら、いわゆるE−WASTEの多くがリユース目的でアジア諸国等に輸出され、中にはリユースが実質的に困難な製品も含まれているということは、今や周知の事実である。それぞれについて、前者には自治体による厳正な対処、後者には中古利用に係る輸出時の判断基準の明確化等が解決の方向性として示されるに至った。
以上の通り、今回の見直しにおいて抽出された4つの課題のうち3つに共通するキーワードは、「リユース品」の取り扱いということになる。循環型社会形成推進基本法において、リユースはリサイクルよりも優先すべき手法として定められており、その重要性は論を待たない。しかしながら、「リユース品」がいわゆる「型落ち」の製品になることは避けがたいため、東アジア等途上国への輸出を通じてE−WASTE問題を引き起こすリスクがあることや、少エネ性能という観点から見た環境負荷削減効果に係る疑問が存在するという点についても十分に勘案して今後の対策を検討する必要がある。本年3月より、経済産業省並びに環境省は、「リサイクル・リユースの仕分けガイドライン」策定等を目的とした合同会合を開催している。
同会合を通じて検討が進む議論が、「最終処分量の削減」や「拡大生産者責任の具現化」と言った当初の切り口を越えた、社会インフラとして定着しつつある家電リサイクルシステムの高度化に向けたファインチューニングための制度改善につながることを期待したい。
上述の4つの課題への対応に加え、報告書には「その他」の区分として3つの重要な制度改善の方向性が指摘されている。1点目は、「品目拡大について」である。そもそも現行法がカバーする「エアコン」「テレビ」「冷蔵庫」「洗濯機」の4品目が定められた経緯は、重量ベースで使用済み家電の8割を占めているとの当時の調査結果に加え、市町村における適正処理困難物に該当すること、小売業者による買換時の下取慣行を活用しての回収というリサイクルシステムの効率性を確保することにあった。報告書には、同様の観点から「液晶テレビ」「プラズマテレビ」並びに「衣類乾燥機」については対象品目に追加することが妥当との指摘が盛り込まれている。ただし、「液晶テレビ」及び「プラズマテレビ」については、大型製品から小型製品まで製品形態が幅広いことなどから、その対象範囲について詳細な検討が必要となる。こうした点を踏まえ、「品目の拡大」については、「リサイクル・リユースの仕分け」と同様に、合同会合を通じた検討が行われているところである。
2点目は、「再商品化率の在り方について」である。既述の通り、4品目それぞれの再商品化率は、法定基準をはるかに上回るレベルで推移しており、その焦点はもはやその数値向上そのものにはない。むしろ、消費者が負担するリサイクル費用低減化に資するリサイクル技術の改善や、リサイクルの質の向上こそがその課題である。リサイクルプラントの事業収支はリサイクル後のスクラップ原料等の販売価格の高騰を通じて改善傾向にあると見られており、効率的で環境適合性の高い再商品化の在り方については、長期的且つ包括的な観点で定性的・定量的に設定されるべきといえよう。
最後に、「先進技術の活用等の可能性」が挙げられている。具体的には、ICタグを活用した家電製品のライフサイクル管理等を見据えた対応可能性の検討等の例示である。本件はあくまで付帯的な表現に留まっているものの、その具体的な方向性が最終報告書に盛り込まれたことの意義は大きい。個別車両に全て固有の車体番号が振られており、国が管理する車両番号と合わせて個体管理が実現できている自動車のケースとは異なり、家電製品はあくまで一般的な消費財であり小売店舗で販売されて以降の行方については、購入した消費者にしか把握することが出来ない。この流れの把握は、プライバシーの問題等とも関わってくる一方で、製品の長寿命化につながる部品・素材情報の管理や、E−WASTE対策、更にはメーカーによるDfEの高度化等にも有効に機能することが期待される。
以上の議論を概観して、いわゆるリサイクル関連法制度が出揃った当時、経済産業省の担当官と意見交換の場を設けた際のコメントが想い出された。曰く、「リサイクル制度は、それぞれ3回の見直しを経て完璧な仕組みになっていくはずである。」今回の見直しでは、「本当にそうなるかもしれない」という期待を抱かせるに十分な高いレベルの議論が進められたことを積極的に評価したい。