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『グリーンIT』への関心が高まり、民間企業はグリーンITを新しいビジネス戦略のキーワードとして考え始めている。
世界最先端のブロードバンド大国等の言葉に象徴されるとおり、ITは社会インフラの中心的な存在にまで成長した感がある。そして、地球温暖化が、国際的な問題として取り上げられている昨今、IT分野において注目されているのが、グリーンIT(地球温暖化対策や省エネ対策など環境に配慮したIT分野での取り組み)である。グリーンITは、経営戦略の一つとして、企業へメリットをもたらすか?グリーンITを取り巻く最近の国内外における業界団体及び民間企業の動向を紹介する。
【動き出したグリーンITの流れ】
京都議定書に定められた第一約束期間が本年よりスタートしたことで、世界的に温暖化対策が活気を帯びつつある。これまで温暖化対策と言えば、エネルギー分野を中心に議論が進められていた。しかしながら、1990年に対する2005年の我が国におけるCO2排出量を見てみると、下図に示す通り、産業部門が改善しているのに対して、民生(業務)、民生(家庭)両部門におけるCO2排出量は増加している。そして、民生部門の増加の主原因とされているのが、オフィスや家庭におけるIT機器の普及と言われている。IT機器の普及は今後も躍進を続けてゆくものと見込まれており、民生部門でのCO2排出量もまだまだ増加するものと予測されている。
急増しているIT部門におけるエネルギー消費に対して、経済産業省および総務省はITの普及を妨げることなく、地球温暖化にも配慮した政策を支援するよう、各種委員会や調査等を実施している。以下に、その概要をまとめる。
[総務省]
総務省では、ICT(Information Communication Technology:情報通信技術)が環境に与える影響として、マイナスの面とプラスの面が存在することを指摘。マイナスの面として、ICTやITに代表される各種機器の爆発的な普及により、新たな電力需要が発生していることでCO2排出量の増加を認識している。
一方、プラス面として、ICT(又はIT)機器によるシステムを構築、活用することで、生産、流通、消費の経済活動が、「いつでも、どこでも、何でも、誰でも」といったユビキタス社会を実現するだけでなく、環境負荷を低減するものと期待されている。
総務省報告書「ユビキタス社会の進展と環境に関する調査報告書」(2005年3月)によると、ユビキタス社会が2010年に実現されると、ネットワークサーバや端末としてのコンピュータ等が普及するため2000年比で600万トンのCO2増加が予測されているが、ユビキタス社会となることで従来の社会・経済構造が変化し、テレワークの実施や交通渋滞の緩和により3,250万トンのCO2排出削減が期待される。よって、ユビキタス社会の実現により2010年では2,650万トン(2000年比)のCO2排出削減がICT(又はIT)により現実になると予測されている。
総務省では、ICT(又はIT)により、環境へのマイナス影響を最小化し、プラス効果とする具体的な例として、以下を挙げている。
| テレワーク | パソコンや携帯端末などの発展、普及により、テレワークが実現。通勤等に係る交通手段から発生するCO2排出量を削減できる。また、テレワークは業務改善によりオフィス全体のCO2排出量を削減できる可能性も兼ね備えている。 |
| ペーパーレス化 | 各種紙媒体が電子化されることで、紙の実質消費量を削減できるだけでなく、書類保管スペースや関連エネルギー(照明や空調等)を削減することが可能となる。 |
| シンクライアントシステム | クライアント端末はサーバとの接続や画面操作などの必要最低限の処理を行うのみで、サーバ側でアプリケーションの実行やファイル管理などを実施するシステム。同システムが導入されることで、クライアント端末は、メモリやハードディスクを持たない最低限の機能を有するのみとなり、これまでクライアント端末に課せられていたメモリやハードディスク分の消費電力量を軽減、併せてファンの稼動を抑えることができる。 |
| サーバ統合 | これまで個々に所有、管理されていたデータサーバ等を統合(集約)すること。これにより、個別に対処していたサーバへの電力供給及び冷却対応を一つにまとめられるだけでなく、個々のサーバに残されていたハードディスク容量を集約させることで、統合前よりも容量を拡大し、効率的なサーバ運用の実現が可能となる。 |
[経済産業省]
経済産業省は、これまでも我が国における温暖化対策の中心的存在として活動しており、我が国政府5省(外務省、経済産業省、環境省、農林水産省、国土交通省)にて組織されている指定国家機関(DNA:Designated National Assembly)の主導的役割を担っているだけでなく、国内企業に対する省エネの推進やエネルギー革新技術計画(2008年3月5日公表)等を担当している。
2007年12月に経済産業省が主催した"グリーンITイニシアティブ"は、環境保護と経済成長が両立する社会の構築に向けた「ITの省エネ」と「ITを活用した省エネ」を進めるための枠組み等の協議を打ち出した構想であり、今後の我が国におけるグリーンITの方向性を産官学の連携で進めるきっかけとなるものである。また、同イニシアティブにおいて産業界を中心に設立された"IT推進協議会"は、今後、温暖化防止に係る技術開発に向けた調査・分析、開発の方向性への提言を担うとともに、本年7月に予定されている北海道・洞爺湖サミットにおいて、政府の支援を行う予定である。
[海外におけるグリーンITの動向]
我が国においては、グリーンIT推進に向けた活動が産官学により動き始めたばかりであるが、諸外国では、類似の動きが既に実行されている。以下に、その概要をまとめる。
海外におけるグリーンIT活動として有名なのが、"The Green Grid(グリーン・グリッド)"だ。グリーン・グリッドは、2007年2月にIBM、インテル、ヒューレット・パッカード、サン・マイクロシステム等により結成された、データセンタの省エネを促進させるための企業コンソーシアムである。主な活動としては、(1) データセンタの省エネ化を世界に拡大させること、及び(2) 米国内外の団体や官公庁と協調して活動を推進してゆくことである。グリーン・グリッドが、データセンタの省エネに着目した背景には、拡大し続けるIT産業において、これまで重要視されていなかったサーバ冷却費用等が拡大し、データセンタ経営を圧迫し始めたという事情がある。グリーン・グリッドは、データセンタの効率的な計画、設計、運用を先導し、普及させる取組みを行っており、まさに環境と経済を両立させるための取組みであるといえよう。
グリーン・グリッドの主張の1つとして、多くのIT機器購入者は、初期投資に関心が向きすぎるあまり、省エネ効率はさておき、安価な機器を選択するという点がある。一方で、地球温暖化への関心も相まって、IT機器への初期投資だけでなく、維持管理費としてサーバ運用や冷却に係る電力消費に関心が向きつつある。このような状況を考慮し、グリーン・グリッドはITユーザーへ機器の省エネ効果が定量的に把握できる指標作りにも力を注いでいる。
データセンタ事業では、これまで運用効率を示す指標として、DCD(Data Center Density:データセンタ密度)が使用されていた。これは、データセンタにおける単位面積当りのサーバ等のIT機器の消費電力量を指しており、IT機器の省エネ効果をモニタリングするものではなかった。
そこで、現在、グリーン・グリッドが米国環境保護庁(Environmental Protection Agency :EPA)らと使用し始めているのが、PUE (Power Usage Effectiveness:電力利用効果)という指標である。これは、設備全体の消費電力をIT機器(サーバやCPU等)の消費電力で除したものであり、データセンタにおける全消費電力量に対する最低限必要とされるIT機器消費電力量の割合を示している。効率的な空調システムや余剰な消費電力を排除したデータセンタでは、総消費電力量は究極的にIT機器による消費電力量と一致することとなり、その際のPUEは1.0となる。因みに、一般的なデータセンタのPUEは2.0程度であると言われている。
グリーン・グリッド以外にも、IT分野における省エネの取組みは官民レベルで国際的に進められている。下表はグリーン・グリッド以外の国際的な取組みの概要をまとめたものである。
| Climate Savers Computing Initiative | 2007年6月にグーグルやインテルなど世界の15企業により設立された、電力効率の優れたコンピュータやサーバの利用による環境保全プログラム(イニシアティブ・プログラム)。民間企業の他、世界自然保護基金(WWF)も幹事組織として参加している。2010年までに全世界のコンピュータ消費電力効率を50%向上させることで、2010年までに全世界の消費エネルギーを約55億USD分節約させ、CO2排出量を年間5,400万トン削減することを目指している。 |
| Framework Programmes, 7th (FP7) | 欧州委員会(EC)では、革新的な技術を普及させ、標準化された通商基盤を構築することを目的として、国際的な共同活動による調査研究や技術開発を推進するために1980年より枠組み計画(Framework Programme)を実施している。最新の枠組み計画であるFP7は、2007年から2013年の期間において総額532億ユーロを投じて実施されている。うちIT分野に対しては最大で91億ユーロが配分される予定。IT分野に係る主なプロジェクトは、ネットワーク、サービス基盤、インタラクション、ロボティクス、デジタルライブラリー、デジタルコンテンツ、エネルギー効率等となっている。 |
| International Telecommunication Union (ITU:国際電気通信連合) | 1865年のパリ万博にて設立された世界最古の国際連合専門機関。主な業務は、電気通信に係る標準化、無線周波数帯の割当て、国際電話接続の各国間調整などである。1959年より、我が国はITU理事国として管理・運営を担当している。最近の活動としては、2007年11月に報告書"ICTと気候変動"を公表。ICT分野におけるCO2排出削減に向けた取組みの必要性を訴えると共に、ICTがエネルギー消費を削減することで、直接的にも、間接的にも、CO2排出削減に寄与することをまとめている。2008年4月には、我が国総務省と共同で京都においてICTと気候変動に関するワークショップを開催する予定。 |
| Saving the Climate @ the speed of light | WWFと欧州電気通信事業者協会(ETNO)が2004年11月から開始した共同プロジェクト。ITやICT利用によるCO2排出削減について検討し、欧州での政策策定を求める活動を実施している。2006年にCO2排出削減ロードマップ(2つのフェーズ)を公表。フェーズ1は、2010年までにテレワークなどICTの利用により、EU域内において5,000万トンのCO2排出削減を目指す。フェーズ2では、2010年までに2020年を目標とした次期CO2排出削減戦略を策定する。 |
[民間企業の動向]
グリーンITは、IT分野における環境配慮行動として国際的にも主流となりつつある。我が国政府も、洞爺湖サミットを目標に、IT推進協議会などを立ち上げ、昨年公表した"美しい国50(Cool Earth 50)"のポリシーに則り、各種温暖化対策を進めている。
国内外での関心を受け、民間企業もまたグリーンITに取組み始めている。しかしながら、急成長を続けているIT業界において、従来業務に加え、環境対策業務を付加的に行うことは、企業にとって厄介ではないのだろうか?このような疑問に対して、企業経営の一環としてグリーンITを実践している事例を紹介する。
富士通株式会社では、2007年12月に「グリーンIT化」を推進するよう、IT機器の省電力化やIT活用で求められる環境負荷の軽減をグループ一丸となり実施することを発表している。
プロジェクトの一つである「グリーン・ポリシー・イノベーション」では、ITインフラの改善と共に、アウトソーシングやコンサルティングなどIT活用における環境負荷低減を以下のようなサービスを実施することで、2007年度から2010年度までの4年間で累計700万トンのCO2排出削減を目指している。
また、もう一つのプログラムである「グリーン・インフラ・ソリューション」では、建屋、マシンルーム、及び電源・空調などの付帯設備を含めた顧客のITファシリティ(サーバやストレージを除くIT機器のこと)において、省電力環境の最適化を目指すサービスを開始している。主な取組みとしては、IT技術者だけでなく建築士が加わり、総合的に顧客ファシリティにおける空調設備や電源設備等を調査・設計することで、ファシリティ全体の省エネ最適化を目指すというものである。
出典:富士通株式会社プレスリリースより
・「グリーン・ポリシー・イノベーション」
http://pr.fujitsu.com/jp/news/2007/12/10-1.html
・「グリーン・インフラ・ソリューション」
http://pr.fujitsu.com/jp/news/2007/12/10.html
地球温暖化への関心が高まっている現在、グリーンITはIT業界における一時的な流行なのであろうか?答えはノーである。グリーンITは言葉だけを見れば、最近のものであるかもしれないが、IT機器運用に関する省エネやエネルギー効率の向上を目指した取組みは、従来から実施されていたはずである。
グリーンITというコンセプトを企業行動・方針に組み込み実績を残している企業は増加しつつある。グリーンITが企業にもたらすメリットとして、次の3点を指摘することができる。
第一は企業がグリーンITに取り組んでいることで環境に配慮した企業広報の実施・企業イメージの創出を期待できるメリットである。環境配慮に取組み、社会に対して情報を提供している企業への評価は高い。分野は異なるが、トヨタ自動車が1997年より発売しているハイブリッド車プリウスは、ガソリン消費を抑えた環境にやさしい車として有名である。特に、米国では一部の環境保護を訴える、又は環境問題に関心のあるセレブリティがこぞってプリウスを購入したことを機に、プリウスの持つ社会イメージが製造元であるトヨタ自動車の企業価値を高めたといわれている。商品や企業イメージが購入者の購買意欲を駆り立て商品の売上げを更に向上させたのである。
第二のメリットは、我が国政府による温室効果ガス削減義務が民間企業に委ねられることを想定した事前の対応である。2006年5月より施行された新会社法(これまで会社に関する条項が商法や有限会社法などに分散されていたものを一つにまとめた法律。有限会社の廃止や資本金や取締役に係る条項等が改訂)導入直前において、多くの企業が新会社法の情報を詰め込むように学習したことは、記憶に新しいところであろう。法律で定められた義務が企業に課せられる場合、企業における影響は大きく、来るべき施行までの間、どの企業も逸早く準備を整えたいというのが本音であろう。
京都議定書に定められた第一約束期間において、我が国に求められている温室効果ガス削減義務の達成が困難と見られている以上、政府により、温室効果ガス削減に係る法的措置が取られる可能性は高い。そのような状況を想定した場合、グリーンITはIT業界における温暖化対策コンセプトとして、重宝されるはずである。企業における新システムの導入は、一朝一夕で完了するものではない。環境に配慮した企業であれば、少しでも早くグリーンITを検討することが賢明である。
最後に、当然のことながら、グリーンITを導入することによる省エネ効果が挙げられる。そして、日本のITベンダー各社は、2006年後半より省エネ効果をキーワードにハードウェアを競うように発売している。富士通では、同社従来製品よりも消費電力を39%削減したPCサーバ「PRIMERGY TX120」を発売している。同様に、NECでは従来型に比べ小型化を図ることで消費電力量を30%(同社比)削減したPCサーバ「Express 5800」を、日立製作所も同様に消費電力量を23%(同社比)削減するサーバ「HA8000-es」を発売している。
また、日本IBM、日立製作所、NECの各社は、IT機器だけでなく、企業における様々なサービスにおいて消費電力の低減に取り組み、グリーンITを担うベンダーとしての責務を全うするよう勤めている。
| ベンダー | 日本IBM | 日立製作所 | NEC |
| プロジェクト名 | Project Big Green | Cool Center 50, Harmonious Green プラン |
REAL IT COOL PROJECT |
| 発表時期 | 2007年5月 | Cool Center 50は2007年9月、Harmonious Green プランは2007年11月 | 2007年11月 |
| プロジェクト目標 | 全世界におけるIBMのCO2排出量を2012年までに、2005年度比で12%削減する。 | Cool Centerは、日立グループのデータセンタにおける消費電力を2012年までに半減する。Harmonious Green プランは、日立IT製品の消費電力を減らし、2012年までに33万トンのCO2を削減する。 | IT機器の消費電力を50%削減し、2012年までにCO2排出量を類型で91万トン削減する。 |
| 主な取組み | 2012年までに同社経理システムを統合して3,900台あるサーバ数を減らし、消費電力を80%削減する。また、年間10億ドルを投じ、エネルギー効率化技術やサービスを開発する。 | IT機器やソフトウェアは勿論のこと、空調機器や変圧器なども含めて消費電力を削減する技術を開発する。製品に実装して、自社のデータセンタでも利用する。 | IT機器の消費電力を削減する他、消費電力を制御するソフトなどを開発する。設備機器を電力効率良く運用するサービスを提供する。 |
グリーンITは、もはや時代の潮流であり、間もなく、環境に配慮した企業の経営方針の1つとして位置づけられるほど広く普及していくものと考えられる。今後とも地球温暖化問題が国内外において活発に議論されることを考慮し、今後もIT業界やIT企業におけるグリーンITの動向に注目したい。