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2008年1月9日  トレンドウォッチ


EUの新化学品規則(REACH)に係る最新動向


(NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティング本部  
シニアコンサルタント  加島 健)

1.整いつつあるREACH運用のための組織/ガイドライン

  企業の対応如何では企業自身の死活問題にも発展しかねないEUの新化学品規則(REACH)は、2007年6月に発効して以降、少しずつではあるが、法制度を運用する母体となる組織や運用に関するガイドラインが整いつつある。

(1) 組織体制の構築
  法制度を運用する母体となるECHA(欧州化学品庁)は、以前に欧州委員会産業総局の責任者を務めていたGeert Dancet氏を同庁の事務局長(Executive Director)として正式に承認した。同氏は事務局長を5年間務めることとなる。また、認可や制限の適否等について意見準備を行う「リスク評価委員会」及び「社会経済分析委員会」のメンバーについて、「リスク評価委員会」は2007年12月に27加盟国37名のメンバーが任命され、「社会経済分析委員会」は2008年2月にメンバーが任命される予定である。なお、ECHA職員の雇用規模は、現在の100名規模から2008年末までに220名まで増員予定となっている。約3万種類とも言われる登録物質対応に質・量ともに十分な組織が構築できるか、ECHAの手腕の見せどころである。

  同庁の2008年度予算も承認された。金額は6,640万ユーロ(日本円で約100億強 ※1ユーロ≒160円換算)となり、そのうち、380万ユーロ(約6億円)は化学物質の登録手数料で賄われる予定で、残りはEU予算から調達される。なお、化学物質の登録手数料に関しても、生産量10トン未満の1,600ユーロ(約26万円)から、生産量1,000トン強の3万1,000ユーロ(約500万円)までの間で設定され、中小企業や登録に協力する企業に関しては、手数料の割引が認められる予定だ。

(2) 法制度の運用に関するガイドライン
  運用に関するガイドラインは、REACHを効率的に実施するための具体的なガイダンス/ツールを作成するためのプロジェクトであるRIPs(REACH Implementation Projects)により作成されており、次第に内容が明らかになりつつある。企業活動に大きな影響を与えるRIP3(ガイダンス文書(産業界向け))に関しては、2007年12月末時点でRIP3.1(登録に関するガイダンス)、RIP3.4(データ共有に関するガイダンス)、RIP3.10(物質の特定及び命名のためのガイダンス)の3つについて最終版が公表されている。

  2007年9月に公表されたRIP3.4では、物質情報交換フォーラム(SIEF)におけるデータ共有の規則等に加え、企業秘密情報(Confidential Business Information)の保護やEC競争法との関係などについて述べられている。データの共有に関しては、各企業の事業活動における重要情報のやりとりとなることから、特に大手企業の間では、今後設立されるSIEF内での駆け引きもさることながら、水面下での激しい攻防が行われることになるであろう。なお、攻防の結果が、今後の企業活動に大きな影響を与えることは容易に推察できる。


2.国内におけるREACH対応動向

  国内においては、産業界の業界団体等がREACH対応を牽引している。ここでは、3つの団体((社)日本化学工業協会(JCIA)、(社)産業環境管理協会(JEMAI)、アーティクルマネジメント推進協議会(JAMP))の最近の動向について簡単に記す。なお、元々JAMPはJEMAIに事務局を置いているが、ここにきてJCIAがJAMP、JEMAIと会合を持つなど協力体制を強化しており、3団体の連携強化が図られている状況だ。

(1)(社)日本化学工業協会(JCIA)
  化学工業団体であるJCIAは、2007年4年に「REACHタスクフォース」を設置し、化学業界のREACHへの取組みに対する支援(会員企業への情報提供/相談対応、等)を実施している。会員企業以外にも情報提供しており、セミナー開催の他、JCIAのホームページでは、REACHに関する登録業務、委託試験実施業務、Only Representative受託業務等のサービスを行う各機関の調査結果資料を掲載している。2007年11月時点では、21の国内関連機関の他、海外の関連機関(コンサルティング会社、法律事務所、試験機関)が掲載されており、REACH対応に苦慮している企業にとって貴重な情報源となっている。また、中小企業向けのREACH対応パンフレットを企画中である。

(2)(社)産業環境管理協会(JEMAI)
  JEMAIでは、2007年5月に「REACH登録支援センター」を設置し、予備登録・登録などの代行、実務者養成講座の開設、ヘルプデスクの設置等を実施している。実務者養成講座に関しては、2007年12月から東京と大阪の2カ所にて開始している。なお、JCIAにて企画中のパンフレットと同様、REACHに関する理解を深めるための「REACH読本」をホームページ上で公開している。

(3) アーティクルマネジメント推進協議会(JAMP)
  2006年9月に17の企業が発起人となり設立されたJAMPは、「アーティクルが含有する化学物質等の情報の適切な管理」及び「サプライチェーン間にて円滑に開示・伝達するための具体的な仕組みの構築/普及」を進めるためのツールとして、以下3つを整備しているところだ。MSDS plusは検証が終了し、当初の一般公開目標であった2008年1月には間に合わなかったものの、現在、公開に向けて改定作業中である。

  ●「JAMP製品含有化学物質管理ガイドライン」(検証中)
  ●「MSDS plus」(検証済)
  ●「AIS(Article Information Sheet)(検証中)

  なお、2006年10月3日時点で61だったJAMPの会員数は、2007年9月5日時点に178、12月25日時点にて216となっている。直近でも増加傾向を示していることは、REACHへの対応に苦慮している企業、ようやく腰を上げた企業が多いことを示しているのではなかろうか。


3.今後のREACH対応

  既存物質の予備登録開始までの時間は半年を切った。REACH運用のための組織/ガイドラインも整いつつある状況下にて、富士フイルムなど、一部大手企業は積極的に対応を講じているものの、これまでの国・中小企業のREACH対応状況を見ていると、地球温暖化問題における「第一約束期間(2008年〜2012年)に突入したものの、温室効果ガスの削減が一向に進まない」状況と同じように、「2008年6月から予備登録が開始されたものの、企業による予備登録が順調に進まない(※予備登録は義務ではない)」という状況が生じるのではないか気になるところだ。

  今から約1年前、2007年1月下旬から3月末にかけて環境省が実施したREACHに係るアンケート調査では、登録に関する検討に関して未着手(今後着手予定/着手予定無)の企業が全体の6割強との結果となっていた。未回答の企業を勘案すると、7割以上が未着手と推察される。現時点では、自社主導/大手成形品メーカーなどからの要求等により、1年前に比べ対応している企業が多いことは間違いないが、様子見、あるいは対応方法がわからない企業が未だに存在する可能性は否めない。

  REACHの要求に応えられないメーカー、特に国内素材/部品メーカーは、「その企業が作る素材/部品がなければ自社製品が作れない」という関係でもない限り、納品先から切り捨てられる運命は避けられない可能性が高い。グローバル化が進み、海外からの調達が容易に行われるようになった現在、REACHの要求に応えられない国内素材/部品メーカーが凋落の一途を辿り、その結果として日本の製造業を衰退させるようなことだけは、何としても防がなければならない。国は、上記に該当する企業を掘り起こしていくとともに、あらゆる角度からサポートしていく必要があるのではないか。今後の国の積極的な行動に期待したい。

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