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2005年6月15日  トレンドウォッチ


クリーンディーゼルは地球温暖化対策における運輸部門の救世主となるか
 〜運輸部門のCO2排出量削減に向けて〜


(NTTデータ経営研究所 チーフコンサルタント 貞宗 康則)

1.依然高い運輸部門の排出量

  政府は温室効果ガスの削減策を示した「京都議定書目標達成計画」を決定し、4月28日に提示した。この中で、毎年CO2の排出量が増加しているとして、特にその対策が求められているのが運輸部門と民生部門である。わが国では、CO2排出量の約20%を運輸部門が占め、そのうちの90%が自動車から排出されている。さらに自動車のうち乗用車が約60%を占めている。しかしながら現時点では、運輸部門におけるCO2排出量削減に向けた抜本的解決策が明示されておらず、運輸部門におけるCO2排出量を減らすためには、燃費の向上を図ることが重要なポイントとなっている。

  このような状況から、格段の技術的進化を遂げつつあるディーゼルエンジンに見直しの機運があり、ディーゼル乗用車をわが国にも普及させようという動きが本格化してきた。元来、ガソリンエンジンと比較して熱効率に優れるディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンよりも約20%燃費が良いため、結果的に走行中のCO2の排出量を削減できるメリットがある。燃費やCO2排出量におけるメリットに技術革新も加わって、近年欧州ではディーゼル乗用車が再評価され、新車販売における比率は1998年以降、毎年約4%の割合で増加しており2002年には44%に達している。
  因みに、1990年から2003年にかけて欧州でCO2が10.4%減ったのはディーゼル乗用車の普及に依るところが大きいとされており、もし日本でディーゼル乗用車が10%増えると200万トンのCO2削減効果が期待できるとしており、地球温暖化対策における削減対応が急務とされる輸送部門においては、このCO2削減量は決して小さくない。

  本報告では、地球温暖化対策における運輸部門の改善方策として検討が始まったディーゼル車、とりわけディーゼル乗用車をめぐる国や業界の最近の動向について概観する。


2.日本市場においてディーゼル乗用車が淘汰された背景

  先に述べたように、欧州で着実にシェアを拡大するディーゼル乗用車と比較して、日本のシェアはわずか0.1%である。日本でもRV(レクリエーショナル・ビークル)車が人気を博した90年代には、ディーゼル乗用車の比率が10%を超えた時期もあったが、その人気に水をさしたのが環境規制と税制改正である。

  まず、環境規制に関しては、1990年代に大気汚染問題が深刻化して訴訟にも発展した社会背景を受けて、1994年から本年10月まで4回の排出ガス規制の制定が行われている。その結果、本年10月施行の「新長期排出ガス規制」が求めるレベルは、窒素酸化物(NOx)規制で88%減少(NOxが未規制であった1974年以前との比較)、粒子状物質(PM)規制で97%減少(1994年以前との比較)となり、2010年に予定されている米国の排出ガス規制までは実質的に世界で一番厳しいものとなっている。

  また、税制面においても1989年の自動車税改正による乗用車の総排気量区分による税制への移行や、1993年に実施された軽油引取税の引き上げ(1リットルあたり8円の増税)等によってコスト優位性が損なわれた。
  さらに、従来からあったディーゼル車の「黒煙をまき散らす」「うるさい」といったネガティブイメージに加えてとどめをさした出来事が、1999年8月に開催された「ディーゼルNO(ノー)作戦」に関する都民との討論会における石原東京都知事のパフォーマンスであると言われている。この席上で石原都知事がディーゼル車から排出された粒子状物質を集めたペットボトルを振りかざして環境負荷を訴えた「都内ではディーゼル乗用車に乗らない、買わない、売らない」というディーゼル締め出しキャンペーンと前後して、ディーゼル乗用車のイメージは一気に下降線をたどり、自動車メーカーも規制対応のためのコスト負担や消費者心理に対応したこともあり、日本の乗用車市場におけるディーゼル乗用車はほとんど無視できるところまで縮小した。


3.クリーンディーゼル乗用車の普及に向けた国の対応

  このように、ディーゼル乗用車は環境に悪いという負のイメージがほぼ定着しているなかで、そのイメージを払拭するための試みが始まっている。

  経済産業省は、2004年9月から2005年3月まで「クリーンディーゼル乗用車の普及・将来見通しに関する検討会」を開催した。内容としては、主に地球温暖化対策の観点からディーゼル乗用車が普及した際の大気環境や地球温暖化への影響評価、コストメリット等についての検討を行い、その結果を報告書にまとめた。ここで用いられている"クリーンディーゼル"という言葉についても、近年の技術革新を受け"ディーゼル"の前にあえて"クリーン"という言葉を配することによって、旧来のディーゼル乗用車の負のイメージからの脱却をアピールしようというものだ。

  検討会の調査結果から、最新のディーゼル乗用車を想定した比較において、ガソリン乗用車とではNOxやPM排出量の点で大きく劣るものの、燃費や燃料価格、車両・製油所からCO2排出量など、総合的には経済性が高いことがわかった。しかしハイブリッド乗用車との比較では、経済性以外の省エネルギー、CO2排出量、大気環境の指標で劣るとの結果が出た。
  また、ディーゼル乗用車が動力性能と環境性能で大きな技術革新を遂げたことを評価する一方、さらなる技術改善や車両コストへの対応が必要であるとした。そのうえで、温暖化対策に効果の高いディーゼル乗用車を普及させるため、ハイブリッド車や天然ガス自動車と同様に、ベース車両との価格差の半額を補助する制度をディーゼル乗用車にも適用することや、2004年度から開始した開発支援費用(5年間で50億円)の増額も検討する。更に、本年10月から始まる新長期排ガス規制に対応したディーゼル車には、自動車取得税を1%減税する制度も創設する。


4.クリーンディーゼル乗用車の普及に不可欠な企業と国の連携強化

  国の支援策が明らかになる中で、企業側はクリーンディーゼル乗用車の普及拡大に向けた研究開発や取り組みを進めている。具体的には、部品メーカーではディーゼルの弱点とされた粒子状物質(PM)や窒素酸化物(NOx)の排出量を燃料噴射装置の技術革新により抑制することが可能となっているほか、燃料の担い手である石油業界は本年4月から超低硫黄軽油の供給を開始している。

  一方で、クリーンディーゼルの普及には課題も残っている。大きな要素としては、前述したようにユーザーである消費者側に、依然として旧来型のディーゼル乗用車の悪いイメージが残っており、技術革新により新たに生まれ変わったとされるクリーンディーゼルに関する認知が広がっていないことが挙げられる。更に、肝心の自動車メーカー側の日本市場におけるクリーンディーゼルの拡大に向けた意気込みは不透明である。現時点では、今までの環境イメージや日本市場におけるディーゼル乗用車の状況から、クリーンディーゼル乗用車よりもハイブリッド乗用車や燃料電池車に関心が向いていると言わざるを得ないのが現状である。

  クリーンディーゼル乗用車の技術開発の進展と日本市場における再活性化は、企業側にとっても国側にとっても単に地球温暖化対策の切り札としての効果だけではない。欧州、中国・アジア市場における今後のディーゼル乗用車の需要拡大を踏まえ、日本の自動車産業が引き続き国際競争力を持続することは経済や産業の活性度を保つことにつながる。このように考えると、環境と経済の両立を実現する意味合いからも、クリーンディーゼル乗用車の普及拡大に向けた企業と国の更なる連携強化は不可欠である。



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